筒井先生の世界に近づこうと、まず原作を写経するところからはじめました。
自分の劇団でタイムマシンや超能力者の出て来る作品を手掛けてきた上田誠は、「SF劇作家」とでも呼べそうだ。
その作品はいつもセンス・オブ・ワンダーにあふれている。
彼が『家族八景』に参加するとなれば期待しないではいられない。
ラスト2話、SFのツボを抑えた話に仕上がっているはず。
興味津々で聞いた、上田誠の考える、SF、筒井、家族八景。そして、堤。
――筒井作品の魅力をどこに感じますか?
僕はもともとSFが大好きで、当然ながら筒井康隆先生の作品も大好きです。
はじめて筒井作品を読んだのは中学の時。『笑うな』を読みました。
筒井作品は文学でありながらエンターテインメントにもなっているところに惹かれます。
どの作品にも必ず実験的な“趣向”があるんですよ。
『家族八景』はまさに『超能力者版・家政婦は見た!』という趣向だと思います。
超能力をもった家政婦によってホームドラマの形を変型させた、非常に美しい小説なんです。
何より僕が感動するのは、八組の家族を描いた八篇の短編で構成されているところ。
途中から路線を変更することなく、最終回に向かう流れを作ることなく、一篇一篇が独立した短編になっている、
とてもコンセプチュアルな連作だなあとため息が出ます。
――脚本を書くにあたり気をつけた部分を教えてください。
あまりに大好きな筒井作品ですから、小説を脚本化するお話を頂いた時は嬉しい反面、脅えました(笑)。小説を映像化して原作に追いつけているものってなかなかないですから。
どんなにがんばっても小説の豊穣な世界には適わない。
だったら小説に書かれていることをできるだけ忠実に脚本という形に翻訳したいと思いました。
――小説の一話分を二話に分けて書かれたワケは?
『芝生は緑』を二話に分けたワケは、僕の担当分は一話分を二話分にして書かなくてはならなかったんです。とはいえ、どの話数もそれをやると原作の一話一家族を描いた美しさが損なわれてしまう気がして躊躇したのですが、『芝生は緑』ならふたつの家族が登場するので、二話に分けることができるかもしれないと思いました。
そして、なるべく筒井先生の世界に近づこうと、まず原作を写経するところからはじめました。
――堤幸彦監督とは初めてのお仕事になりますね。
小ネタなどのガジェットがよく注目される監督ですが、僕としては既存のシステムに飽き足らない開拓精神に共感を覚えます。エンターテインメントをやりながら東北や名古屋で映像を撮っている監督の活動は興味深いです。僕は京都を拠点に演劇活動をやろうとしているので。
マジなことにシュガーコートしながら開拓を続けていくパワーに憧れます。
SF作家もそうだと思うんですよね。言ってしまえば、SFも演劇も、芸術じゃなくて芸能なんですよ。
地面に近いところで物作りをしているという点で。
とすれば、今回のドラマ『家族八景』は、そういう人たちが集まって作った作品なのではないでしょうか。
心を読むところの演出など、正しいエンターテインメントの形だなと思います。
――今回、小劇場で活躍する劇作家たちの競演のようでもありましたがいかがでしたか?
作家でもある前田司郎さんや江本純子さんが書いたものも面白くて、僕が最後ということでプレッシャーもありました(笑)。――九、十話をご覧になる方へ、メッセージをお願いします。
目指したのはストロングスタイル。マンションの一室に夫婦二人だけというとても限定された中で、やれるだけのことをやってみました。
最終回だからキレイに終わるのではなく、いい意味で表層的に弾けまくったらんちき騒ぎになっていると思います。
でもまさか、これが最終回になるとは思っていなかったんですよ(笑)。
[プロフィール]
上田誠 Makoto Ueda1979年、京都府生まれ。劇作家、演出家。劇団ヨーロッパ企画主宰。
98年に劇団を旗揚げ以降、京都を拠点にして活動している。
2005年、戯曲『サマータイムマシーン・ブルース』が、本広克行監督によって映画化される。
続いて09年に『冬のユリゲラー』も『曲がれ!スプーン』として映画化。
『曲がれ!~』は戯曲ではありながら、そのSF性の高さからハヤカワSFシリーズJ コレクション・レーベルから文庫として発売された。
その他、アニメ『四畳半神話大系』の脚本も手掛ける。